橿原市からJリーグを目指すサッカークラブ「飛鳥FC」は、日本フットボールリーグ(JFL)昇格がかかる「全国地域サッカーチャンピオンズリーグ2024」の決勝ラウンドに進出。11月24日にたけびしスタジアム京都で行われた決勝ラウンド第3戦では、ジェイリースFCと対戦しました。
試合は、前半38分に相手の右サイドからの崩しで先制点を許しますが、直後の40分に、エースのFW清川流石世選手のゴールで同点に追いつきます。一進一退の展開で迎えた後半36分、中盤でボールを奪った飛鳥FCは、得意のカウンター攻撃を発動。最後は、清川のパスを受けたMF井口椋介がGKをかわして流し込み、値千金の逆転ゴールを奪った。試合はそのまま2-1で終了。この勝利で2勝1敗とし、トータル勝ち点6で初出場、初優勝を飾りました。来季はJ1から数えて4部に相当するJFLを戦います。
関西をはじめ関東、九州など9つある地域リーグの優勝クラブが、J1から数えて4部に相当する日本フットボールリーグ (JFL) 昇格をかけて戦うサッカー大会。今年の関西リーグで王者に輝いた飛鳥FCは、4クラブずつ3組で戦う予選ラウンドを2勝1敗で通過しました。同じく4クラブで争う決勝ラウンドでは、1位になるとJFLに自動昇格。2位の場合は、JFL最下位との入れ替え戦に勝利すれば、昇格が決まります。
歓喜のJFLへ~飛鳥FC、2024年の歩み~
カシュー編集部は2024アストエンジ関西サッカーリーグDivision1開幕前から飛鳥FCに密着。歓喜の瞬間までを見守ってきました。今年のチームの歩みについて、当時を振り返りながらレポートします。
戦力ダウンからのスタート
今季の飛鳥FCは、昨オフに長年チームを支えてきた選手が引退したり、2023年のリーグで得点王に輝いた選手が移籍したりするなど、大幅に戦力が入れ替わる中でスタート。2021年にポルベニル飛鳥(現飛鳥FC)の監督に就任し、長年チームを率いてきた美濃部直彦監督も「人数的にも戦力的にも、今年が一番全体的に小粒になったと思います」と分析する戦力でした。そんな中でも美濃部監督の「僕がイメージするサッカーと、選手が出来る力量を比べて、『これは出来る、これは出来ない』というのを精査して、工夫しながら戦っていく」という言葉通り、序盤戦は苦労する展開が多く見られながらも、一歩ずつチーム作りを進めてきました。
「監督が言ったことを具現化する」変幻自在のスタイル
今年の飛鳥FCが見せたサッカーは、高い戦術理解度に裏打ちされた変幻自在な戦い方でした。目指したのは、「ボールを保持して動かしながら、ゴール前でアイデアを出して点を取る」スタイルと、「前線でボールを奪ってからショートカウンターで点を取る」という一見相反するスタイルの両立。攻撃と守備の両局面を意識しながら、相手を分析した上で、3バック・4バックを併用したり、2トップ・3トップを併用したりするなどフォーメーションを自由自在に組み替えて戦いました。当初は「『この場面で速く攻めた方がいいな』などの状況判断ができるように戦術を浸透させていくのが難しい」と美濃部監督も話していましたが、徐々に戦術が浸透し、成績も上昇。清川選手も「監督が言ったことをどれだけ具現化できるかというので結果残してきたチームだと思う」と自分達のサッカーを表現しました。
天皇杯予選の敗戦と関西リーグ優勝
格上のJリーグ・奈良クラブと対戦した5月の天皇杯奈良県予選では、粘り強い守備を武器に善戦。美濃部監督も「内容的には悪くなかった。相手をリスペクトしすぎずに思いきってプレーできた」と語るように、監督がかかげる変幻自在な戦術の一旦が垣間見える展開となりました。最終的には0-1で敗れたものの、収穫も多い試合となりました。その後の関西リーグでは、好ゲームを連発。第6節のFC.AWJ戦にて、2-1で勝利したのを皮切りに、リーグ終了まで9戦負けなし。リーグ唯一の1ケタ失点(9)を誇った自慢の守備を武器に、上位直接争いを繰り広げたCento Cuore HARIMAやアルテリーヴォ和歌山を封じ込み、悲願の初優勝を果たしました。
エースの台頭
攻撃面では、待望のエースストライカーも登場しました。昨シーズンから攻撃の核として期待されながらも、数字という目に見える結果を残せていなかったFWの清川流石選手が活躍。スピードを生かしたプレーと、時に見せる芸術的なシュートを武器に、リーグ戦では3位タイとなる7ゴール。迎えた「全国地域チャンピオンズリーグ」(地域CL)の舞台でも、予選ラウンドのブランデュー弘前戦、決勝ラウンドのVONDS市原戦で、後半アディショナルタイムに劇的な勝ち越しゴールを決めるなど、開幕前から美濃部監督が「あいつが決めたら勝てる。攻撃のキーマン」と期待した通りの活躍で、印象的なゴールをたくさん決め、チームを引っ張ってくれました。
笑いの絶えないロッカールーム、挑戦者の精神
Jリーグ・徳島ヴォルティスなどで監督を務めた美濃部監督が、社会人として働きながらプレーする選手がほとんどのアマチュア軍団に植え付けたのは「楽しむこと」でした。昇格がかかった地域CLの舞台でも、ロッカールームは笑いが絶えない和やかムード。関西リーグ優勝が見えてきた時点から美濃部監督は、「君らに適しているのは楽しむこと」だと言い続けてきました。プロの場合は、あと何勝で優勝・昇格というプレッシャーをかけることもあるそうですが、あえて「注目される舞台を楽しもう」と言うことで、選手の緊張感を取り除いてきました。清川選手も「俺らってどれだけやれるんだろうというスタンスを監督が提示してくれたので、チャレンジャーの気持ちで挑めた」と地域CL中に話してくれました。一方で、「ゲームだから激しいし、やらなきゃいけないことはある。自分のやれる範囲のことだけはきっちりやってくれ」(美濃部監督)と伝えることで、選手たちにとって、やるべきことが明確化され、そのスタンスが快挙へとつながりました。
悲願の全国リーグ挑戦へ課題は山積み
次々と全国の強豪を打ち破り、JFL進出を果たした飛鳥FCですが、ピッチ外では課題も山積みです。JFLは全国リーグとなるため、北は青森から南は沖縄までアウェイの遠征が発生。今夏に資金調達のためのクラウドファンディングを行ったクラブにとって、資金面での不安は尽きません。また、ホームスタジアムとして想定される橿原公苑陸上競技場の使用は陸上などと共同のため、どれだけ橿原でホームゲームを開催できるかも現時点では未知数です。これらの課題をクリアして、全国リーグで戦っていくためには、橿原市民をはじめ、中南和のファンからの応援が必要不可欠な状況です。
飛鳥FCのエンブレムのモチーフにもなっているのは、『日本書紀』に登場し、神武天皇による日本建国を導いた金色のトビ「金鵄(きんし)」。この「金鵄(きんし)」のように中南和のシンボルとしてJリーグを目指す飛鳥FCに、来季も注目していきます。
梅本タツヤ
奈良県のスポーツの面白さや奥深さを広く発信するべく活動している副業スポーツライター(普段はサラリーマン)。好きなスポーツは、球技(野球・サッカー・バスケ)、格闘技、モータースポーツなど。運動音痴なため得意なスポーツはなし。